宇多田ヒカル「初恋」を聴きながら

好きだという言葉では大雑把すぎるのです。もっと細分化した気持ちで、あなたを想っている。最良のあなたの笑顔を思い浮かべては、今すぐ傍にいないことでこんなにも胸が苦しい。今日のような雨上がりの静かな夜は気温が下がるので、わたし一人の体温では満たされない。あなたの狭い部屋のベッドを二人で占有して、更にはもっと狭いあなたの腕に抱かれたい。幸いなことにあなたの感覚を覚えている。においに安堵する。守られているようで。一瞬であろうと、掻き毟るほどに愛しいのです。父のようで母のようで、暖炉の前の犬のようで。それが今容易く手に入らない空間だと知り、思い出してはやはり泣きたくなる。メッセージひとつがあなただけは重たいわ。通知が来るたび心臓を握られるよう。正直でいたい・好きでいてほしいの激情を行ったり来たり。いつも見ていたい。けれど目線を投げれば、こちらを見ていないことも分かってしまうから、ずっとは難しい。あなたの横顔を、骨ばった手の甲を、器用そうな指先を、スケッチするようになぞる。できればそのまま絵にしたい。あなたへの恍惚をかたちにできたら、どんなに欲情するだろう。不思議ね、想う時間が長いほど、あなたに触れたときの喜びは増すの、分かっているから、この苦しさでさえ甘く、酔ってしまう。いくらでもわたしをあげたい。最高のものをあげたい。それがあなたにとっての喜びであってほしい。わたしに多少痛みを伴ったとしても、捧げたい気持ちになる。感情は生ぬるい風のようで、度数の高い甘ったるい酒のようで、完成しない鉛筆画のようで、書き足りない詩にも似ている。下がることを知らない熱のせいで泣けてくる。こんなんじゃあなたを火傷させてしまう。傷つけてしまうことは怖いようで、全てを投げかけたいようで、この欲望の根を確かめては一人でうずくまって、どうにか夢の中で済むように祈る。あなたが好きだと言っていた映画を、たどるように観るわ。全てがあなたに繋がっている。一種の視野狭窄をいつかは笑うのでしょう。ただそれさえも今は力や熱となってわたしを蝕むのでしょう。どうか今夜夢の中で。